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魔人 第拾弐話其ノ弐

 ≪伍≫

 葵とマリアの二人は目隠しされた上、後ろ出に縛られた状態のまま車から降ろされると、ある一室に連行された。
 部屋に入った際乱暴に突き飛ばされたので二人とも床に崩れるように座り込んでいた。マリアは傍らに感じられる葵に怪我は無いかと小声で訊ねる。葵は小さな声で大丈夫ですと返してきた。

「只今戻りました」

 どうやら年上の方の少年が、上司に当たる人物に自分たちを誘拐して来たことを報告しているようだった。
 目隠しをされているので断定は出来ないが、マリアは気配から部屋の中には先程の少年二人と、彼らが報告を捧げている首領(ボス)、そしてもう二人、少年らと同じような人ならざる≪力≫を持った人物がいるように感じられた。

 葵もマリアと同様に部屋の中にいる人物の様子を正確に把握していた。ただ、マリアよりも≪氣≫に敏感な分、少年らの放つ≪氣≫が酷く歪んだものであるように視えた。
 視えた──という表現は目隠しをされている自分が使うにはおかしい表現だが、しかし葵にはそうとしか言い表しようがなかった。

<私…何で…。どうして視界を遮られているのに、≪力≫を持つ人の姿を、そしてその≪氣≫の姿を捉えることが出来るのかしら>

 更に葵には、その中の一人の≪氣≫だけが他者の物とは異質であることも感じ取っていた。まだ微弱な物であるが為、ともすると他の三人の≪氣≫に紛れ勝ちであったが…。
 混乱する葵を、マリアはこのような誘拐に巻き込まれたショックからだと思い、自身の身の危険を顧みず誘拐犯らに抗議をする。

「あなたたちッ、こんなコトをして、ただで済むと思っているのッ!これは立派な誘拐よ!!」

 だがその抗議の声も、男の高笑いで遮られてしまう。

「ようこそ──我がローゼンクロイツ学院へ」

 葵はその声に聞き覚えがあるような気がしたが、はっきりとは思い出せなかった。
 男は目的の葵の他にもう一人拉致してきた理由を実行犯である少年に問い質す。少年がこの女が抵抗したのでやむなくと言うと、

「うむ、そういう事情では致し方有るまい…。女、お前の名は」

 尊大な態度で、名を聞いてきた。

「ワタシはマリア=アルカード。このコの学校の担任をしているわ」
「ふむ…。我々が用があるのはミサトアオイ、お前の内に秘められた強大な≪Macht≫(力)だけだ」

 その言葉に葵の身体が凍りついたように硬直する。マリアはそんな葵を庇うようにしてジルに舌鋒を向ける。

「この娘をどうするつもり!」
「どうもせんよ、ただ我々選ばれた民の為に役立ってもらうだけ。≪Tausendjahrig Reich≫(千年王国)の為の礎となってもらう」
「≪Tausendjahrig Reich≫…千年王国。キリスト教の教義に出てくる理想の王国ね。そんな経典に登場するようなモノが一人のニンゲンの≪力≫で現れると、本気で思っているの?」

 呆れた声をあげるマリアに、死に逝く者にこれ以上話しても時間の無駄だと、トニーと少年の名を呼び、さっさと始末するように言い付ける。

『!!』

 その時部屋の片隅にひっそりと立っていた人物の≪氣≫が一瞬大きく揺らめいたのを、葵は感じ取った。声無き悲鳴に近いその≪氣≫は自分たちの仲間の物と良く似ていた。
 ジルもそれまで微弱だった≪氣≫が揺らめいたのを肌で感じ取ったのか、今まで無視していた人物の名を呼んだ。

「20(マリィ)、やはりお前がこのオンナを殺(や)れ。お前の≪火走り≫(ファイアスターター)の能力を見せてやるのだ」

 トニーは自分が指名を外されたことに不服を抱いたが、それをジルに向けることは絶対に許されないことであった為、マリィを憎々しげな目で見ることで解消しようとした。

「アノ、デモ………」

 仲間の憎しみに満ちた視線と、ジルの威圧的な態度、そして何より人を殺せという命令に、マリィと呼ばれた少女は恐怖の余り涙を零し始めた。

「出来損ないが…」

 その姿に落胆したジルに追従するように、トニーとイワンも出来損ないと冷たい言葉を浴びせる。

「22(トニー)やはりお前が───」
「学院長(ジル)様…」

 それまで沈黙を守っていた少女が、小声ながらもジルを制止するような発言をする。ジルもこの少女の言葉には耳を傾けることが多いのか、別に不満の様子も無く、更なる発言を促す。

「この者の発する原子核波動に分裂・不調和の波が見えます。しばらく調査の対象物になさってはいかがでしょう」

 トニーの黒い血が見られるという物騒な表現から、マリアの身の安全が保障されたわけでは決してないのだが、その場は二人を収容施設に監禁するということに落ち着いた。



 収容施設内の監禁場所で、ようやく目隠しと手の縛めからは解放されたのだったが、二人には拉致されてからどの位時間が経過したのか、それすらも分からない位に感覚が麻痺していた。

「アイツら、美里サンの≪力≫のコトを知っている風だったわね。一体何者なのかしら。それにあの子供たちの≪力≫…あれは」

 そこまでマリアが話した所で、通路奥の鉄の扉をカチャリと開ける音が聞こえてきた。早速どちらかが調査の対象として連れ去られるのかと、二人は身を固くして近付いて来る人物を待ち構えたが、現れたのは10歳程度の少女だった。

「Meals──」

 そう言うと、無表情で二人の前にパンと飲み物を差し出した。
 思いも寄らなかった言葉と行動に驚きつつ、葵は少女に問いかける。

「私に?」

 Yesと少女は呟くように言う。葵はこの少女が先程ジルにマリィと呼ばれていた少女だったのでは無いかと気が付いた。

「日本語、分かるの?」
「スコシ…。コレ、食ベテ」

 少女の行為に、葵とマリアは素直に食べ物を受取ることにした。葵は少女がまだ立ち去らず所在無げにこちらの方をじっと見ているので、逆に自分から会話をしようと試みた。

「あなたの名前は、何て言うのかしら」

 優しい声で話し掛けられたので、少女は少し警戒心を解いたのか、微かにはにかんだ表情で自分の名前を名乗った。

「マリィ…マリィ=クレア…」

 やっぱりと、葵とマリアは小さく頷いた。そして、葵は感謝の気持ちを込めてマリィに笑顔を向け、今度は自分の名を名乗った。

「こんにちは、マリィ。さっきはありがとう。私の名前は美里葵っていうの」

 もう一度、マリィが覚えられるようにゆっくりと区切って名乗ると、マリィもアオイと小声で呼び返してきた。だが、その小さな口元に錆び色の固まりが残っていたので、怪我をしたのと葵は訊ねた。

「…ジル様ニ叱ラレタカラ……」

 多くは語らなかったが、恐らくあの後、命令に背いた罰でジルから頬を殴られたのだということが、二人は疑いも無く理解できた。

「手当てをしてあげるわ、こっちへいらっしゃい」

 葵は鉄格子越しに手を差し伸べる。おずおずと近付いたマリィの頬の上に、自分の掌を翳し、いつも仲間たちにしているように治癒の術を唱えた。

「まったく、子供にこんなことをするなんて…。さあ、もう大丈夫よ」

 マリィが返事を返す代わりに、背後から一匹の仔猫が満足そうに一鳴きした。マリィも仔猫を見つけると大切に腕に抱き締めた。

<良かった、まだ逃げてなかった…。ジル様に捨てろっていわれたからもう会えないかと思っていたのに…>

「可愛い猫ちゃんね、そのコの名前は何ていうの?」

 自分の唯一の友だちである猫を誉められたことが無かったマリィは、自分の名前を聞かれたときよりも更に嬉しそうな表情に変えて、メフィストと葵に教えた。

「マリィノトモダチ…」
「そうなの。それじゃあ、私もマリィの友達になっていいかしら?」
「エッ………………」

 マリィは戸惑いから言葉を詰まらせていたが、やがてコクンと小さく頷いた。
 その仕草に、葵も、マリアも相好を崩す。

「マリィはいくつになったのかしら?10歳くらい?」

 何気なく年齢を効いてみたが、その答えは十分に衝撃的なものだった。

「……16」
「16歳……本当に…」

 どう見ても自分と二学年違いとは到底思えない。だが目の前にいるマリィが嘘をつく少女でないことは、すぐに理解できた。
 葵は無意識の内にマリィの手をいとおしむようにそっと握った。

「イイ匂イスル…アッタカイ光……。アノ時計ト同ジ…」
「あの時計?」

 葵がもしやと問い掛けようとした時、マリィは突然顔を強張らせると足早にその場を去ってしまった。そして彼女と入れ替わるように、白衣を身に着けた数人の男が物々しい様子で鉄格子の前に現れた。

「出ろ…ミサトアオイ…」

 通路の奥からは先刻の少年たちの≪氣≫さえも感じられたので、葵は大人しく従う他なかった。


 マリアは自分一人になった空間で、一つ溜息をついた。

<どうやらさっきのコは命令されて来たのじゃなかったようね…。本当にワタシたちのコトを気遣って…、というコトはもう時間的には昼近く>

 今なら自分一人ぐらい逃げ出せるかもしれない、そう思う気持ちも無いわけではなかったが、

<もうそろそろあのコたちがここに気がつくはず。そう、緋勇龍麻。あなただったら──>

 確信に満ちた想いと、そして何より龍麻を試してみたいという気持ちが、今のマリアの中を支配していた。




 ≪六≫

 新聞部の壁の時計はすでに11時を廻っていた。
 すでに2時間近く休むことなく皆で手分けして必死に資料を漁っているが、未だ目ぼしい情報を掴むことが出来なかった。

「小学校・中学校・高校・大学・公立・私立・総合学園──。どれを見ても無いわッ」

 ややトーンダウンした叫びを上げるアン子に、小蒔は泣き言に近い言葉を洩らす。

「全国会社便覧にも無いよッ、アン子〜」

 醍醐も新聞や雑誌に目を通していたが、キリが無いとこちらもややぼやきに近い言葉を口にする。
 龍麻は外国人の少年というアン子の目撃情報から、部室にある英字新聞やパソコンを使った検索を担当していたが、やはり収穫は無かった。

「まあまあ、ちょっと落ち着こうぜ。おいアン子、ここって確かポットと急須があったろ?この蓬莱寺京一サマが茶を煎れてやっからよ」
「あら、気が利くじゃない───って、アンタ、さっきから何もしてないじゃないのよ!!」

 一人元気な京一を見て、アン子は相当ムカツいているようだった。

「いや〜、俺なんかどうせ役に立たねェし」
「こういう時だけ、謙虚なことを言って」
「いいじゃねェか、醍醐。少しは休憩しようぜ、なッ、ひーちゃんも───」

 だが龍麻は無言でパソコンのキーボードを叩きつづけている。その目は何かに憑かれたかのように画面だけを見ていた。

<…葵、マリア先生。どうか無事で…>

 ぽんと肩に手を置かれるまで、龍麻は周囲の言葉が耳に入ってこなかった。

「きょ、京一…」
「ちょっとは休めよ、ひーちゃん。じゃなねェと、この先もたねェぜ」

 居場所さえ掴めたら、次に葵たちを救出する行動を取らねばならなかった。当然相手が素直に引き渡してくれるとは思えない。≪力≫を振るう必要を伴う可能性の方が高かった。

「うん…、そうだね。ありがとう、京一」
「へへッ、俺が美味い茶を煎れてやっからな」

 京一が全員の茶を用意している間、アン子はここまで資料を漁っていても何も手掛かりが無いということは、視点を変えた方がいいかもしれないと提案してきた。

「それって──このバッチにこだわるなってコト?」

 アン子から気分転換にと渡された真神新聞を龍麻と二人で読んでいた小蒔が、思いついた言葉を訊ねるかのように言う。

「というよりは、何故葵を名指して狙ってきたのか…。そっちの理由から考えた方がいいってことかしら、アン子」
「そうねぇ、あたしの見た限り、この誘拐は営利目的ではない。けれども彼らの動きは的確で、こういったことに慣れているという感じに見えたわ」
「つまりは、人には無い≪力≫を持つ者を今まで何度も誘拐して来た組織だと考えた方がいいという訳ね…。例えばそういった能力を研究している機関だとか……」

 ここまで言って忌わしい記憶が龍麻の頭の中をふっと過ぎった。

<死蝋…。そう言えばあの時…>

 地下実験室で意識を取り戻した時、死蝋は何者かと電話で話をしていた。

 ──あれはいい素材だ。心配しなくてもあなたの所に研究資料はお送りしますよ…共に人類の未来を憂いている者同士、これからも協力していきましょう…

<もし今回の誘拐犯がこの電話相手だとしたら…、相手は死蝋と同じ生物学者か…医学者、それに…>

 ───我々には共通の協力者(スポンサー)がいますし…

<背後にいるのは【鬼道衆】!!間違い無い、あの時現れた炎角も我々が協力していたとはっきり明言していたのだし。だとしたら何故葵だけを…>

 ───その書物には鬼たちが菩薩眼を持つ女を攫っている様子も書かれていたの…その書物には当時その鬼たちが何て呼ばれていたか……【鬼道衆】って…

<まさか…まさか葵が──>


「みなさ〜ん、お茶が入りましたよォ〜。さあさあ休憩しましょッ」
「京一、その喋り方は止めろ。気色悪いぞ」
「そうよッ、龍麻だってそう思うでしょ……??どうしたの、顔色悪いわよ」

 そんなに気持ち悪かったのとアン子は龍麻の方を向きながら、京一からお茶を受取る。

「あつッ!!!ちょっと京一〜、熱すぎるわよッ」

 思い切り湯気の立っている湯飲みの真ん中当たりを掴んでしまい、アン子は慌ててそれを机の上に広げてあった今日の新聞の上に乱暴に置いた。その衝撃でお茶の飛沫が新聞の上に数滴飛ぶ。

「あ〜あ、まだ今日の新聞読んでないのに……んッ?これ、この写真…」

 アン子が指差した写真とその記事に、四人も注目する。

『大田区文化会館で行われた世界孤児救済バザーは盛況のうちに幕を閉じ、その収益金が財団法人の理事長、ジル・ローゼスさんに手渡された──』

<ジル・ローゼス……って>

 アン子らが新聞に被りつくようにして見ているのを横目に、龍麻はパソコンでその名前を検索し始めた。

『ジルさんは長年、孤児の育成と教育に携わり、自らも今春大田区内にローゼンクロイツ学院を創立。世界各国の恵まれない孤児たちを引き取り、熱心な教育と手厚い保護の元、日々救済に励んでおられる』

「あった…」

 丁度皆が新聞記事を読み終えた時に、龍麻もインターネットでジルに関する記事を検索し終えていた。そこにはローゼンクロイツ学院の紹介記事が載っていた。

「この学院の校章…そして新聞の写真に映っているジル・ローゼスの襟元のバッジ…。間違い無いわね、アン子が今朝拾ったバッジと同じものだわ」
「でも、ひーちゃん。新聞記事を読む限りでは、この人誘拐なんてしそうな感じじゃないけど。だって孤児を救済してるんでしょ」

 しかしアン子はこの校章が怪しいと指摘する。

「鉤十字は、梵語では『幸せを呼ぶ者(スワスティカ)』至高神ヴィシュヌの象徴とされているけれども、一般的にはナチのハーケンクロイツとして知られているわよね」
「そんなイメージのある物をわざわざ校章に…胡散臭いな。龍麻、お前はどう考える?」
「良識ある大人、ましてやヨーロッパの人ならば、ナチという言葉そのものが禁忌に近いものなのよ。それに纏わるものも含めてね。何より気にかかるのが、この人物…」

 龍麻は以前にこの人物の名を聞いたことが有ると言う。ほんの僅かの間だったが、大学の医学部に籍を置いていた時に、授業の中で現代医科学界の権威の一人として名を挙げられていた。

「でもね、その研究内容が10代の、それも幼い子供の脳の発育や能力に関するもので、私も余り熱心に読んだ訳ではないのだけれど、何故だか好感を抱くことが出来なかったのだけははっきりと覚えているわ」

 顔をややしかめながら龍麻が話した内容を受けて、アン子は俄然はりきって皆を叱咤する。

「それじゃ、後はここに乗り込むだけねッ!!場所もはっきりと分かったし」
「遠野…。毎度済まないとは思うが…」
「またあたしだけ置いてけぼりにするってコト!冗談じゃないわッ!!」

 醍醐の言葉に猛反発するも、龍麻から葵とマリアの誘拐のことが大事になるのを防ぐには、アン子の協力が絶対に必要だからと諭される。醍醐と小蒔もその言葉に大きく頷くのを見て、

「………分かったわ。こっちの方はあたしが何とかしておく。その代わり、美里ちゃんとマリア先生のこと、しっかり頼んだわよ」
「勿論よ、こっちこそ協力してもらって本当に助かったわ」
「龍麻…お礼を言うよりも、無事に帰ってきて情報提供してよね」

 最後にアン子流の励ましを受けて、四人は新聞部を慌しく後にした。
 その時時刻は12時を少し過ぎた所であった───




 ≪七≫

 山手線の品川駅から京浜急行に乗り継ぎ、最寄駅の穴守稲荷駅から程近いところに、ローゼンクロイツ学院の建物が並んでいた。

 だが、想像していた以上に厳しい塀に囲まれた物々しい雰囲気に、

「塀が高くて、無機質で何かイヤな感じ…。養護施設っていうより病院や刑務所だよ」

 小蒔が辟易した様子で、第一印象を的確に表現する。

「警備員が複数校門に立っている。やはりこの学校は普通じゃないな、どうしたものか…」
「ったく、決まってんじゃねェかよ、醍醐。堂々と警備員を蹴散らして表から入る。それしかねェぜ」
「その意見は採用できないわ、京一」

 龍麻は相手のことがまだはっきりと分からない以上、無闇に行動することは、引いては誘拐された二人の身の危険にも繋がると、京一の言葉を退けた。

「そうだな、まずは裏口を探してみるか」

 校門を背に、壁沿いに建物を一周してみた。だが、目に付くのは所々に設置された監視カメラのみで、裏口はおろか、内部を窺えるようなわずかな隙間すら見つけることはできなかった。


「無駄足だったか…」
「入り口はここだけ…。異様に厳しい、厳しすぎる位の監視体制だわ」

 だが、その厳しさが反対にここに二人が捕らわれている可能性の高さを証明すると、龍麻は断言した。

「やっぱりここは正面突破しかねェぜ。よっしゃ、いくぜッ、ひーちゃ───」
「ちょ、ちょっと待って!」

 勢いに乗って突入しようとした京一の前方に、立ち塞がるように現れたのは、ルポライターの天野絵莉だった。相変わらずのタイミングの良い遭遇に、龍麻と天野は互いに苦笑を浮べながらも、彼女はビジネスでここに用があって来たのだと説明した。

「理想の福祉施設と名高いローゼンクロイツ学院の取材──そして、その裏に潜む陰謀を暴く為にね」

 この学院ほど、叩いて埃の出る学校も無いのではと、天野はさらりときついコメントを口にした。

「ところで、あなたたちはなぜここに?」
「……葵が誘拐されて…、そして現場にここの校章が落ちていたんです…」
「俺たちの担任も一緒に」

 小蒔と醍醐の話を聞いて、天野は驚きの声を上げた。

「担任って──マリアが?」
「天野さん、マリア先生とお知り合いなんですか?」

 問い掛ける龍麻に対しては、『ええまあ、ちょっとした』と天野は曖昧な言葉で答えた。いつもの天野らしからぬその様子も気になるが、それよりも今はこの学院の情報を入手する方が先決であると、龍麻は彼女に知っている情報を教えてもらえないかと頼んだ。

 それを快く受けて、天野は知っている情報を洩らさずに四人の前で話し始めた。

「このローゼンクロイツ学院は孤児たちを集めて、英才教育を施し、施設の面でも優れた評価を得ている学院なの。でもその内部の実態は、余り知られていない…。私が入手した情報では、ドイツ人である学院長のジルは、孤児を引き取り養育する福祉施設という仮面の裏で、身寄りの無い子供たちを利用した人体実験を行っているらしいという噂が流れているわ」

 子供を使った人体実験という衝撃的な言葉に、天野は更に補足を加える。

「詳しいことは分からないけれど、脳の成長が最も活発な10代前半までの子供たちの右脳を人為的に操作する──平たく言えば超能力に関わる実験が…」
「超能力ってマンガやテレビだけの話じゃねェのかよ」

 京一の疑問に、龍麻がそんなことは無いと首を振る。

「人間の隠された能力を開発する研究は昔から行われてきたわ。アメリカやロシアにはその為の国家研究機関もある…。これは真面目な学問でもあるのよ。だからといって、人体実験…それも身寄りの無い子供を使ったなんて行為は許されるものではないけれども」

 ましてやそんな非人道的な実験を行っている人間が、医学の名を語るのは許せないと嫌悪の表情を露にややきつい口調で言い切った。

「緋勇さんはここの学院長のことを知っていたの?」
「…医科学の権威としての名前なら聞き覚えがあります」
「そう───。我々としては彼が、ヨゼフ・メンゲレの再来でないことを祈るしかないわね」

 溜息混じりに天野が言ったその名前に、京一ら三人は聞き馴染みが無かった。小蒔が龍麻に、その人誰?と訊ねたので、

「ヨゼフ・メンゲレは、ナチス・ドイツの時代、ナチスが占領したポーランド南部のアウシュビッツに置かれた強制収容所で人体実験に興じた医師…。当時、人は彼を『死の天使』と呼び、狂気の医師として恐れたというわ」

 その犠牲者数は定かでは無いけれどと、深刻な声色で龍麻が説明した。

「とんでもねェ野郎だな…。にしても、ナチつながりか…。やっぱり怪しいぜ」
「それに、死蝋の時と似ているな…」

 醍醐はそう呟くと、要らぬことを言ったかと龍麻の方を心配そうに見た。

「…私もさっきからそう思っていたのよ、醍醐君。死蝋が実験室で私に語った言葉…あれは到底受け入れられる物ではなかったけれど…」

 ──君のその強靭な肉体と揺るぎない精神力、そして超人的な≪力≫があれば、人は超人…いや【魔人】ともいうべき存在に進化できるのさ。分かるかい、緋勇君。
 その≪力≫があれば、犯罪や戦争を無くすことができる。君たちが苦労して護っているこの東京も、もうこれ以上君たちが傷付くことは無くなる。

<……【魔人】…、私が進化した人間ですって…。馬鹿な物言いをッ!この≪力≫が有れば何もかもが解決するなんて、そんな世迷言を真に受けている人間がまだ他にも居たなんて…>

「ひーちゃん、どうしたの?」

 考えごとに浸っていた龍麻を、小蒔が心配そうに見つめていた。

「…一刻も早く、こんな所から葵とマリア先生を救出しないと」
「葵も実験に使われちゃうのッ?!」

 小蒔の脳裏にも、自分たちが龍麻を救いに行った時の実験室の光景が蘇ったのだろう。

「それを止めるのが俺たちだぜ、小蒔。そんじゃ警備員をブチのめして強行突破と──」
「ちょっと待って!」

 今度こそと意気込んだ京一を、再度天野が止めにかかったので、京一はその表情に少し不満の色が表れていた。

「私はここの訪問を表向きは正式に許可されているの。そしてあなたたち四人は皆ジャーナリスト希望の学生。今日は私の一日見習として一緒に中に入る──こんなシナリオはどうかしら?」
「本当によろしいんですか?天野さんに迷惑をかけてしまうかも、いえ、実際にかけることになりますが」

 天野の申し出は嬉しいと思いつつ、でも…と躊躇う龍麻だったが、

「うふふ、こういう形であなたたちに協力できるんだったら、自分の職業に感謝したい気持ちで一杯よ。これならあなたたちも安全って訳だし、お互いの利害は一致したわね」

 天野は自分から言い出したことだから遠慮は無用と、笑顔で切り返した。

 醍醐も小蒔も龍麻に倣って礼を言うと、

「それじゃ、ここから先はしばらく私に合わせてね。…特に蓬莱寺君」

 自分の持っていたカメラケースなどの機材を京一と醍醐の二人に渡すと、すたすたと正門の方に向って歩き始めた。その言葉を聞いて、龍麻らも慌てて後ろに付いて行く。

「京一…しばらく木刀預からせてもらっていいかしら?」
「何でだよ?」
「木刀持ったジャーナリスト志望の学生なんて思い切り怪しすぎるじゃないの」

 龍麻は女の子が持っている方がまだ警戒心も薄まるでしょうと小声で返す。

「分かったぜ、それじゃしっかりと預かっててくれよッ」

 言われるまでも無く、京一愛用の木刀を納めた紫紺の袋を受取ると、それを大事に両腕に抱えた。
 その時、心の中を渦巻いていた鬱屈した思いをすうっと包み込むような安心感が心の中に満ち始めたのが、不思議に心地よかった。



「名前を名乗りなさい」

 正門の扉に開けられたわずかな覗き窓から、この学院を訪れた人物を機械的な喋り方で警備員の中で一番の責任者が誰何(すいか)する。

「私はフリーのルポライターの天野絵莉という者です。本日はこちらの学院の学院長とご面会の上、取材をさせて頂く約束を取り付けておりまして…」
「その様な話、何も聞かされていないが…。第一、学院長はご多忙の身である」

 慇懃無礼な物言いにも天野は笑顔を崩さずに、それでしたら学院長に直接ご確認頂けますかと言う。直接という言葉を聞いて、やや怯んだ警備員は咳払いを一つすると学院内の事務室に内線電話で来訪者の名を告げる。

「……確かにアポイントは取ってあるようだ。だが、本日学院長は急用の為、代わりに副学院長が取材に応じられると──」

 その言葉を聞いて、天野の背後の四人はやはり怪しいと互いに頷きあう。

 鉄の扉が音を立てて開けられる。天野に続いて四人も中に入ろうとするが、それを咎める声が投げ掛けられた。

「まて…その学生たちは…?」
「今日はいつものカメラマンと助手が風邪で寝込んだので、急遽私の母校の新聞部の後輩をアシスタントに呼んだのですが」
「……部外者は余り立ち入らせたくないのだが」

 四人という人数の多さに、警備員は再び警戒心を募らせたようだった。

「おまけに、そこの女子生徒の手に持っているのは…?」

 指差されたのは龍麻であった。小蒔の弓の入った袋は、見慣れない物だった為か、天野の言う通り取材の為の機材と勘違いしたようであったが、龍麻の手にしている木刀は目敏く見つけられてしまった。

「ああ、このコだけは新聞部とは関係ないのですが、今回こちらの学院には世界各国の子供たちが保護されているとのお話ですので、念のため通訳として同行してもらったんです」
「は、はい…。私こう見えても帰国子女なので」

 天野の言い訳に、口調を合わせて龍麻も説明をする。

「…学院長は、今回の取材を宣伝の一環とおっしゃっておられました。いい記事を書きますから、彼女の同行も許可していただけますでしょうか?何だったら私の方からも学院長にお願いしますけれど」

 いやそこまでしてもらわなくとも…と、警備員はそれ以上追及することは止め、最後に注意事項を五人に言い渡した。

 ──指定された場所からみだりに動かない
 ──大きな声を出して騒がない

 分かりましたと、全員精一杯礼儀正しく答えてから、警備員の目の届かない場所まで移動した。

「さてと、それじゃ、ここで別れましょうか。…皆の健闘を心から祈っているわ」

 天野が警備員に指定された建物に入っていくのとは反対の方向に、四人は早足で移動を始めた。




 ≪八≫

「ひーちゃんが止められた時はどうなるかと思ったけど、無事潜入できて良かったね」
「そうね。それにあの警備員の様子じゃ、葵たちの誘拐に関しては知っている様子は見られなかったから、この件に関しては一握りの人間だけが関与しているようね」

 龍麻は京一に木刀を返しながら、そういうことだから学院関係の人にはなるべく穏便に対応するように念を押す。
 醍醐が何故そう言い切れるかと問い掛けてきたのには、

「私たち真神の制服のままでここにやって来たのに、それを見て警備員たちは動揺の色一つ見せなかったわ。単に外部の人間を入れたくないっていう一心ね、あの対応は」
「成る程…、そう言われればそうだな」

 誘拐された人物と同じ学校の者、それも複数名を内部になど普通は入れはしなかろうと、醍醐が納得する。

「ちッ、警備員を締め上げれば情報が手に入ると思ったのによ」

 残念がる京一に、でも葵たちのいる場所に関する手掛かりが無いわけではないと龍麻が自分の推測の範囲での話をする。

「葵たちの誘拐を知る一握りの人間のトップがここの学院長というのは明白。そして…自らは表に出て直接手を下さず、なおかつ下っ端の警備員にまで恐れられているような人物が、わざわざ遠くの建物に足を運んで実験だのする性格の持ち主だと思う?」
「…自分の目の届く範囲で…ということだな、龍麻」
「その通り。何もかも統制しないと気が済まない性格の人ならば、自分の執務室から遠くない所にそういう施設も用意して、誘拐した人物も監視させると睨んでいいわね」
「よっしゃ、そんだったら話が早えぜ。つまりは、この真ん中の建物がクサいってことだろ」

 別れ際に天野から手渡された、学校の内部地図(もちろん外部向けの当り障りの無い範囲での地図だが)の中から、京一が学院長室のある場所をすばやく見つけ指差した。



「…何だか冷たい感じの建物だね…白い壁と扉ばかりが続いていて」

 四人は学院長室のある棟を歩きながら、その内部があまりにもひっそりと静まり返っていることに驚かされた。

「とても学校の中とは思えねェな。ガキの声一つも聞こえてきやしねェ」
「ああ、これじゃまるで病院だ」
「幼い子供たちを手厚く養育する施設とは、ますますお世辞にも言いたくないわね」

 苦笑を浮べる龍麻の表情がすっと硬くなった。傍らの小蒔も龍麻が注意を向けた方向を見遣ると、そこには小さな人影が立っているのが見えた。

「こ、こんにちはッ、キミ、この学院の生徒さん?」

 小蒔は相手が中学生位の子供だと分かり、親しみを込めた笑顔で話し掛ける。しかし、相手は無言のまま、ただこちらをじっと観察していた。

「おい、チビ、聞こえねェのか?」

 問い掛けても沈黙を守りつづける相手に業を煮やした京一が、年長らしからぬ乱暴な口調で再度話し掛ける。

「アナタタチ…ダレ…?」

 ようやく口を開いた言葉が不法侵入を咎めているかのように聞こえた為、小蒔は必死に笑顔を作り、怪しい者じゃないと言い訳する。

「バカヤロー、目一杯怪しいじゃねェかッ、そんな言い方」
「そんなコト言われたって、京一の言い方のほうがよっぽどヒドイよ」

 睨みあっている二人を無視し、龍麻は身体をかがめて、丁度少女の目線の位置まで自分の顔を下ろすと、親しげに挨拶をする。

「こんにちは、私の名前は緋勇龍麻っていうの。難しいからタツマでいいわ、よろしくね」

 だが相手が自分の顔をじっと見ているだけなので、内心日本語よりも英語の方が良かったかなと後悔し始めた頃、少女は小さくタツマ?と口の中で呟き、更にじっと龍麻の顔を覗き込むように見つめていた。その探るような視線に奇妙な感覚を抱いた龍麻は、少女に小首を傾げながら問い掛けた。

「…いきなりじゃやっぱり怪しく感じちゃうわよね?」
「ウウン…、見テイテ何ダカ温カイ気持チニナル…。コレト一緒…」
「これって───?腕時計」

 少女の小さな掌には、不釣合いな大人っぽい女性用の腕時計が握られていた。

「ひーちゃん、この腕時計、葵のと同じだよッ」

 小蒔が見覚えのある腕時計を見て、反射的に言葉を口に上らせた。本当にそうなのと龍麻に訊かれたが、葵から前に腕時計の話を聞いたのだと返事をする。

「間違い無いよ。だってこの時計、日本じゃあまり売ってないって…。葵のお父さんが海外に出張に行った時に入学祝用に買ってきたんだって教えてくれたから」
「アナタタチ…アオイヲ知ッテルノ…?」

 やっぱり、と四人はここに葵たちがいるという確証を掴むことが出来た。一刻も早く二人がいる場所を聞き出したいとはやる気持ちを押さえつつ龍麻が答える。

「ええ、私たちは葵の友だちなの」
「トモ…ダチ…?マリィ…ワカラナイ…」
「あなたマリィって名前なのね。いい、マリィ、友だちっていうのはね──」
「ひーちゃん、それより早く葵たちの居場所を教えてもらおうよッ。ねェ、キミッ、葵はどこにいるの?知ってるなら教えて」
「ナゼ、アオイ捜スノ…?」

 何故って言われても、そんなの当たり前、自分たちの大切な仲間なんだからという小蒔の言葉を、マリィは心底不思議そうに聞き、そして感情の乏しい声色で、

「仲間ハ大切ジャナイヨ。イクラデモ、新シイ仲間ツクレルモノ。DATAサエアレバ、イクラデモ、増ヤセル」

 恐らく何度も言い聞かされた言葉なのだろう、何かの呪文のように淀みなく呟く言葉の、しかし少女が語る言葉とは思えない内容の凄まじさに、四人は自分の身体に戦慄が走ったのを覚えた。

「キミ…何を…」

 語りかけるべき言葉を見出せない小蒔は、マリィが腕に大切そうに抱えている仔猫に目を留めた。

「キミは友だちが死んでも悲しくないの?例えば、その猫が死んでも悲しくない?」
「メフィストガ…?」

 マリィは全身をびくりと震わせ、怯えるような表情に変えた。

「そうだよッ、悲しいだろ?」
「ワカラナイ…ワカラナイ…」

 双眸から透明な雫を流し、忍び泣きを始めたマリィに、さすがに言い過ぎたかと小蒔は弱ったなと短く呟く。

「マリィ……」

 龍麻は躊躇うことなく、マリィを自分の胸元に引き寄せた。

「…悲しい時は、泣きたい時は声を上げて泣いていいのよ」
「……泣クト…ジル様怒ル……。兵士ニ…感情…必要ナイッテ…」

<ジル…やっぱりあの男が…>

「大丈夫、怒られそうになったら私が代わりに怒られてあげる」
「………タツマ…」

 そこからマリィは堰を切ったかのように龍麻の胸元に顔を埋め、声を上げて泣き始めた。彼女が思う存分泣けるように、龍麻はマリィの背をそっと撫でながら、ただ時が流れ行くのを待った。

「こんな子供の感情を縛り付けるなんて、教育者の風上にも置けんな」
「……兵士なんて訳分かンねェ表現まで持ち出しやがって」

 醍醐と京一はまだ見ぬジルという男に対して、是が非でも一発食らわしてやらないと気が済まないといった憤りを露にする。

「ごめんね、マリィ…ひーちゃん…。ボクが馬鹿なことを言って…その…ごめんなさい」

 ひたすら恐縮する小蒔に、マリィはようやく涙で濡れた顔を龍麻の胸元からゆっくりと上げる。その表情には先程までは無かった、子供らしさという物が僅かであったが融解し始めたようであった。

「マリィ…、あのね、仲間はいくらでも増やせるっていうのは間違いではないの。でもね、仲間はDATAで作られるんじゃないの。相手を思いやる気持ちが芽生えた時、そういう時に他人が仲間、友だちという存在に生まれ変わるの」
「……ジャア、タツマハ…マリィノコト、ドウ思ウノ?」
「勿論友だちになりたい、そしてマリィの力になれる仲間になりたいって思っているわよ。それは私だけじゃなくて、ここにいる三人も同じように思っているわ」
「21(トニー)モ、19(イワン)モ、17(サラ)モ、ミンナマリィノコト、仲間ダケド邪魔ダッテ言ッテタ」
「チビ、そんなけったクソ悪いことをぬかす奴らの言うことは忘れちまえよ。お前はお前が信用できると思えるヤツの言葉を信じればいいんだぜ」

 乱暴な言い方をしながらも、京一はマリィの金髪の頭を優しくクシャっと撫でてあげた。

「…アオイモ…マリィ…友ダチッテ言ッテクレタ…。デモ…アオイ…今アソコニ連レテ行カレタ」

 マリィは近くの下に降りる階段を指差しながら、でもそこから先は勝手に入るとジル様に叱られると言う。

「実験中ダカラ…」

『─────!!!』

 躊躇する余地もなく、京一、醍醐、小蒔は階段を降り始めた。その光景をおろおろと見つめるマリィに、龍麻は心配要らないからと笑いかける。

「ありがとう、マリィ。ここからは私たちだけで行くから。…元気でね。またいつか会いましょう」
「………!!タツマ……!!!」

<マリィ…何ダカ胸ガキュットスル…。前ニモコンナコト、合ッタヨウナ…>

 龍麻が三人を追いかけるように階段を駆け下り、姿を見せなくなる間、マリィは微かにしか覚えていない、自分の過去の記憶が断片的に頭の中に流れて来た。

<確メタイ…。モウ一度、タツマニ…。ソレニアオイニモ…>

 今まで自身が実験される為に連れて行かれた時以外、絶対に降りたためしの無い階段を、マリィは何かに導かれたように降り始めた。

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